W o r k ・ W o r t h ・ D o i n g





昇り始めた太陽に照らされて、朝露に濡れた芝生がきらきらと輝いている。昼間は学生達の喧噪に溢れる大学構内も、今は心地よい静寂に包まれていた。木々の間から響く小鳥のさえずりに、セシルはふと足を止める・・・軍の施設から追い出されたのも、そう悪くはなかったかもしれない。『こういうの、エリア11では“住めば都”って言うんだって!』 変わり者で知られる上司の言葉を思い出して、セシルはひとり小さく笑った。
朝の散策を楽しむようにゆっくり歩いていると、向こうから数人の男子学生が歩いてきた。詰襟を模した学生服には見覚えがある・・・どうやらスザクと同じ、アッシュフォード学園の生徒のようだ。大きなバッグを抱えているところを見ると、部活の早朝練習があるのだろう。すれ違いざま、セシルが学生たちに目を向けると、先頭を歩いていた一人と目が合った。
「おはようございます!」
軍の制服に物怖じもせず、男子学生が元気よく挨拶する。体育会系の部活動らしく、周りの学生も続いて声を上げた。
「おはようございます」
セシルは笑顔を浮かべると、清々しい気分で挨拶を返す。他のブリタニア人学校に比べて、アッシュフォード学園はリベラルな校風で、生徒の自主性も高いという。イレブン出身の生徒は例がないそうだが、先日編入したスザクにもきっといい友人が見つかるに違いない。
そんなことを考えながら歩いていると、早朝の澄んだ空気にコーヒーの香りがうっすらと漂ってきた。出勤時刻までにはまだ時間もある。美味しいコーヒーを飲みながら、朝の仕事をこなすのも悪くないだろう。セシルは深く息を吸い込むと、コーヒーショップに立ち寄るべく、いま来た道を戻り始めた。


  *  *  *


トウキョウ租界において広大な敷地面積を誇るアッシュフォード学園には、初等部から大学部に至る教育機関や、研究施設等が揃っている。その大学部の北隅、著名人の講演会などに使用される大講堂の脇を抜けると、かつて使われていた旧運動場がある。そこに停められている大型トレーラー・・・それがセシルの所属する、ブリタニア軍特別派遣教導開発部、通称『特派』の仮住まいだ。
軍の本部隊から厄介者扱いされ、基地から追い出された特派は、大学側に研究協力するという形で敷地の一部を間借りしている。通常であれば拒まれてもおかしくない申し入れだったが、主任研究者の名前を出すと、学園側は快く承諾してくれた。ロイド・アスプルンド――――セシルにとっては手のかかる上司でしかないが、ロイドはその道でも名高い、ナイトメア工学研究における第一人者なのだ。
この一見なんの変哲もないトレーラーの中にも、最新技術の粋を集めた新型ナイトメアが積み込まれている。ブリタニア軍試作開発型教導兵器Z-01、通称『ランスロット』――――ロイドが設計した第7世代ナイトメアの最新鋭機だ。『ランスロット』を含む次世代ナイトメアの研究開発及びオペレーション・・・それが主任補佐役を務めるセシルの仕事であった。


  *  *  *


「・・・あら?」
いつものように職場へ足を踏み入れたセシルは、紙袋に入ったコーヒーを片手に低い天井を見上げた――――既にトレーラー内には煌々と明かりがついている。いつも適当な時間に顔を出すロイドはもちろん、この時間ではまだ整備作業員も出勤していないはずだ。昨晩はセシルが戸締りを行ったので、電気を消し忘れるはずもない。
首を傾げつつトレーラー内を見渡すと、端末の向こうに明るい鳶色の髪が覗いている。セシルは端末へ近づくと、画面に向かう後姿に向かって明るく声を掛けた。
「おはよう、スザクくん」
「あっ、おはようございますセシルさん!」
何に集中していたのか、スザクが驚いたように立ち上がる。椅子に座るように促して、セシルが首を傾げた。
「今日は随分早いのね・・・昨日は大変だったんだから、ゆっくりでいいのに」
「セシルさんこそ、いつもより早いんじゃないですか?」
「ロイドさんが出勤する前に、昨日のデータをもうちょっと整理しておきたくてね・・・きっと来た途端に『テストやりた〜い!』って大騒ぎするに違いないもの」
肩をすくめるセシルに、スザクが苦笑しつつ頷く。
「そうでしょうね・・・だからほら、僕も先に着替えておきました」
パイロットスーツの襟を摘んでみせるスザクに、セシルは心配そうに眉を寄せる。
「いやだわ、スザクくんはいいのよ。むしろちゃんと休まないと!自覚はなくても、昨日の戦闘で身体にはかなりの負荷がかかっているんだから」
「でも・・・」
「でも、じゃありません」
セシルは腰を屈めると、スザクの鼻先に人差し指を突きつけた。
「身体を休めてコンディションを保つ事は、重要な任務のひとつです。わかりましたか、枢木准尉」
「・・・Yes, my load」
上官からの『命令』には、スザクも逆らう事が出来ない。温かな気遣いに、スザクが照れたような笑みを浮かべる。しかし、すぐに表情を引き締め、背筋を正してセシルを真っ直ぐに仰ぎ見た。
「でも、僕は本当に大丈夫ですから・・・もしランスロットでテストをするなら、ぜひ自分にやらせてほしいんです。お願いします!」
大きな深翠色の瞳を見詰めながら、セシルは軽くため息をつく。一見従順そうでありながら、スザクはなかなか強情なのだ。その強い意志こそが彼の強みではあるのだが――――硬すぎる剣は折れやすくもある。少年らしい率直さと正義感が、時に不合理で非情な命令を下す軍に迎合できるのか・・・スザク自身が選んだ道とはいえ、セシルにはそれが気がかりでもあるのだった。


  *  *  *


「それより、端末と睨めっこしてどうしたの?こんな早くから報告書の作成ってわけでもないと思うけど」
「はい、実はどうしても気になることがあって」
スザクはそう言って、青く光るモニタに向き直った。横から画面を覗きこむと、ロックされたデータパネルがいくつも表示されている。
「あら、これは昨日の」
「はい、昨日の戦闘に関する報告を閲覧していたんですが、自分の権限では見られない部分みたいで」
「一体何の報告かしら?」
優しく問いかけるセシルに、スザクは戸惑うように目線を彷徨わせた。
「・・・ランスロットが破壊したナイトメアの・・・レジスタンス・・・いえ、テロリストたちはどうなったのかと思って・・・」
俯いた横顔を見遣って、セシルは再び内心で嘆息する。
中野ゲットー周辺で日本解放戦線との戦闘があったのは昨夜未明の事だ。実戦データ取得のため、特派も途中から軍の作戦に参加したのだが、敵のゲリラ戦法に本隊が苦戦する中、ランスロットはたった1機で敵ナイトメア14体を破壊した。押され気味だったブリタニア軍が比較的短時間で勝利を収めることができたのも、ランスロットの活躍あっての事と言える。
しかし、スザクがその後の顛末を知らないのも無理はない。功績を横取りされたと軍の主流派から逆恨みされないうちに、特派が現場から撤退した為である。ただでさえイレギュラーな存在とされていた部門ではあるが、新型ナイトメアのパイロットにイレブン出身者のスザクを迎えた事で、特派はますます軍部から目を付けられるようになっていた。


  *  *  *


スザクに代わって席に着いたセシルは慣れた手つきで端末を操作し、軍部共用データベースから昨日付けの戦闘データ報告を選択する。パスワード入力と簡易指紋認証を施すと厳重なセキュリティロックが外れ、無骨なナイトメアの映像が画面上に映し出された。イレブンの間で『無頼』と呼ばれるナイトメアだ――――ただしオリジナルの設計ではなく、エリア11の抵抗組織がブリタニア軍の量産機・グラスゴーを拿捕して、改造したものであるという。
記録映像を再生すると、陣形を組んで移動する5体の無頼に対し、画面端から白い影が現れた。影はまず、先頭を進む無頼の脚部を粉砕して集団の足止めを行い、敵陣の中央に躍り出る。そしてスラッシュハーケンを左右に繰り出し、奥2体のナイトメアのファクトスフィアを破壊した。続けて後ろへと跳躍し、残り2体をライフルガンで狙い打つ。正確な射撃により5体のナイトメアは次々と崩れ落ち、完全に沈黙した・・・この間、わずか10秒にも満たない。現場に立ちすくむランスロットの映像を眺めつつ、セシルは改めてスザクの能力に舌を巻いた。ロイドが狂喜するのも頷ける、素晴らしい才能である。
確かに特派の開発したランスロットは、スピード、パワー共に、従来のナイトメアとは比べ物にならないほどの性能を誇っている。だがそれとて搭乗者がいなければ、ただの木偶の坊でしかない。ランスロットは突出した性能ゆえに、身体能力に優れた者しか搭乗出来ないというデメリットがあった。厳しい条件に初めて照合した人物・・・それが枢木スザクという一等兵の少年だった。
スザクはその並外れた反射能力もさることながら、戦闘行為に対して飛び抜けたセンスを持っている。機体の性能だけでなく、デヴァイサーであるスザクこそが、ランスロットの真の力を引き出していると言っても過言ではないだろう。
大破したナイトメアの映像を前に、隣で画面を覗き込んでいたスザクの顔が不安げに曇った。
「無頼のエジェクション・シート、排出されていませんよね・・・彼らは無事だったんでしょうか?」


  *  *  *


スザクの言葉に無言で瞳を細めると、セシルはキーボードに指先を滑らせた。キーを叩くと同時に、昨日の戦闘に関する詳細報告書がディスプレイに表示される。内容に素早く目を走らせて、セシルはすぐさま報告書を消し去った。小さなウィンドウで開いたので、隣に立っているスザクには何のファイルだか分からなかっただろう。セシルは続けざまにキーを打って、無頼の画像をモニタに映し出す。
「スザクくんがランスロットで破壊したのは無頼の脚部と頭部よね。頭部のファクトスフィアから繋がる駆動中枢・・・人間で言うと背骨に当たるんだけれど、その部分が衝撃で破損して、コクピッドのエジェクション・シートが作動しなかったんだと思うわ」
ナイトメアの画像を指差しながら、セシルは例えを挙げて簡単に説明する。モニタをじっと見つめながら、スザクが小さく頷いた。
「パイロットが直接ダメージを受けているわけじゃないんですよね?」
「・・・恐らくね、」
念を押すような言い方に、セシルは少し考えてから慎重な答えを返す。上官の様子を窺って、スザクが目線を落とした。
「すみません、僕はまだランスロットの扱いに慣れていないので・・・実戦で上手くやれたのか、とても気になるんです」
「スザクくん、」
「傷つけたくないんです、たとえ『テロリスト』でも・・・できることなら」
相手を傷つけずに敵ナイトメアを停止させる――――スザクの言う『上手くやる』とは、そういう意味なのだろう。軍人として甘すぎる考えだと思ったが、セシルはそれを注意することが出来なかった。ブリタニアが『テロリスト』として処断する人々は、スザクの同胞・・・『侵略者』から自分たちの国を取り戻さんとする『日本人』なのだ。スザクはこれ以上の争いを止めるために名誉ブリタニア人となり、軍に志願したという。平和を望みつつも同胞と敵対しなければならない現実・・・それは17歳の少年にとってあまりに重いものだろう。セシルは何かを振り払うように軽くかぶりを振ると、俯くスザクを覗き込んで言った。
「・・・あなたは十分『上手くやった』わ、スザクくん」
諭すような優しい響きにスザクが顔を上げる。
「あなたがランスロットで彼らを止めた時、ナイトメアのパイロット達に外傷は認められなかった・・・全員が自力で脱出して軍に投降したそうよ」
「そうですか・・・!」
ほっとしたようにスザクの表情がほころぶ。よかった、という安堵の呟きが薄い唇から漏れ、セシルは静かに目を伏せた。その傍らで、スザクが笑顔を浮かべて首を傾げる。
「それで、彼らの処置なのですが、」
「お〜は〜よ〜!」
スザクが続きを口にする前に、妙に間延びした声が隣の机の下から響いた。


  *  *  *


ひどく間の抜けた朝の挨拶に、セシルとスザクは思わず顔を見合わせる。ふわあ、という欠伸と共に腕が伸びて、机上に放置されたステンレスフレームの丸めがねを掴んだ。何やら意味不明の呟きと共に、机の合間からよろよろと白衣の男が立ち上がる。
「ロイドさん!」
「うーん、君たち今日は早いんだねえ。僕はさっき寝付いたばかりなんだけど」
「ええっ、まさか床で寝てたんですか?」
片手で目をこすりながら服の汚れを払うロイドに、スザクが驚きの声を上げる。
「まあね〜。だって昨日は僕のランスロットが大活躍だったじゃない?ワクワクしちゃって眠れなくてさぁ、夜中に来ちゃったってわけ!」
「まったくもう・・・」
満足そうなロイドを横目に、セシルは指先でこめかみを押さえる。しかめっ面のセシルを見て、スザクが軽く苦笑した。
「それでスザクくん、早速なんだけどさぁ」
子供のように目を輝かせて、ロイドがふらふらと身を乗り出す。
「昨日の実戦データを元に、ランスロットの基礎データを調整してみたんだよね〜。戦闘シミュレーション、やってみてくれないかなぁ!」
「わかりました。すぐにスタンバイします」
即答したスザクに、椅子から腰を浮かせてセシルが声を掛けた。
「・・・スザクくん、本当に体調は大丈夫なの?無理しなくていいのよ?」
「ええ、大丈夫です。やらせてください!」
力強く頷くと、スザクは小走りでシミュレータへと乗り込む。セシルの方を振り返ると、ロイドが満面の笑みで指示を下した。
「セシルくん、テストデータのパターンはGH-6319でね」
「了解。シミュレータ起動、ロードデータ、パターンGH-6319」
即座に仕事モードに切り替えて、セシルは端末に向き直った。復唱と共に、壁に埋め込まれた映像パネルが輝く。起動画面が表示された後、ランスロットのコクピッドを模したシミュレータやテストデータの映像が映し出された。ワイヤレスタイプのミニマイクをつまみ上げて、ロイドが画面のスザクに向かって語りかける。
「それじゃあ枢木准尉、テストを開始するよ〜。敵数は30、量産タイプのサザーランドね。思いっきりやっちゃって!」
「Yes, my load」
シミュレータ内部のスザクが自信に満ちた笑顔を見せ、一瞬後に顔を引き締める。実機さながらに駆動音が響き、戦闘シミュレーションが開始された。敵機遭遇を示すアラート音と共に、ランスロットの前に数機のサザーランドが立ちはだかる。
「・・・すごい」
シミュレータの映像を見つめながら、セシルが息をのんだ――――信じられない動きだった。昨日以上に今日は動作の精度とスピードが増している。ロイドによる調整の成果もあるのだろうが、ただそれだけではないことがセシルには分かった。
「ダミーだからねぇ、これは」
セシルの心を見透かすように、パネルを見つめたままロイドが答える。
「誰も死人が出ないから、思いっきりやれるんでしょ」
ロイドの言葉にかぶって、人工的な爆音が響く。たった数十秒の間に、スザクはシミュレータに出現した4機のサザーランドを大破させていた。ハーケンを使ってファクトスフィアを粉砕し、MVSを振るって頑強なナイトメアを切り裂く。その切っ先はエジェクション・シートを含むナイトメアの中枢にまで達していた。これが実戦ならば、サザーランドのパイロットは脱出機能を利用する間もなく、真っ二つになっていることだろう。
「ん〜、最高!まだまだ彼はすごいポテンシャルを秘めているなあ」
四散するサザーランドを眺めながら、ロイドが楽しげに手を叩いた。


  *  *  *


「スザクくんの能力は素晴らしいと思いますけど・・・私は心配です」
手元のキーボードに目を留めて、ぽつりをセシルが呟く。ロイドが小首を傾げてニヤリと笑った。
「セシルくんは優しいねえ」
「なんです?」
含みのある言い方に、セシルは眉を寄せて上司を見る。
「教えてあげなかったんだ〜?スザクくんに」
「何をですか?」
「昨日の『テロリスト』の末路だよ。投降した全員が、その場で射殺されたって」
寝たふりをしつつ、ロイドは机の下で二人の会話を聞いていたのだ。相変わらず食えない人だと思いつつ、セシルは表情を改めると、姿勢を正してロイドを真っ直ぐに見据えた。
「・・・専属デヴァイサーのメンタル面に影響を与える情報は、現時点で開示する必要がないと判断しました」
スザク自身が彼らを傷つけたわけではない。だからスザクに言った事は嘘にはならないはずだ。セシルを見下ろして、ロイドが眼鏡の奥の瞳を細める。
「そうだねえ、君の判断は正しい。でも、そういった現実を今のうちに見せてやることも、スザクくんには必要だったかもしれないねぇ。だって彼はブリタニア軍の兵士で、ランスロットの『パーツ』として、これからいっぱい活躍してもらわなきゃならないんだから」
戦場で活躍する・・・それはつまり、多くの敵兵を殺すという事だ。二人の間に沈黙が落ちた。シミュレータの中ではスザクが操縦桿を握り、ランスロットを巧みに操っている。その姿をモニタ越しにじっと見つめながら、セシルは軽く唇を噛んだ。
「・・・わかっています。でもスザクくんは17歳で、まだ子供なんです。本当なら友達と遊んだり、学校で勉強したり、そんな風に普通の毎日を過ごしているはずじゃないですか・・・それなのに、私たちは・・・」
「彼を人殺しの道具にしているって〜?」
おどけた口調でロイドが口の両端を吊り上げた。
「そう、僕たちは国家っていう大義名分の下で、あんな子供に同胞殺しをさせている、とーっても罪深い存在だ・・・そう言ったら満足なのかい、君は」
「ロイドさん!」
「彼に罪悪感を感じる必要なんてないと思うけどね、僕は」
抗議の声を上げようとしたセシルは、ロイドの顔を見て口を閉ざす。アイスブルーの瞳がひどく優しい光をたたえてセシルを捉えていたからだ。
「ユーフェミア様がスザクくんを学校に通わせようとした時のこと、覚えてるかい?そのときユーフェミア様は軍も辞めて、文官の道へ進むように説得したじゃない。だけど、彼はそれを断った・・・自分にはここでやりたい事がある、なあんて言ってたよね」
鼻からずり落ちた眼鏡を片手で直しながら、ロイドが肩をすくめる。
「これはさ、彼が自分で選んだ道なんだよ。それは誰にも口出し出来ない事でしょ。スザクくんにはここでやりたい事があって、僕らも彼を必要としてる・・・利害は一致してるし、万事オッケーじゃない。なんたって、僕のランスロットはスザクくんにしか乗りこなせないんだからね」
セシルがサイドモニタを見遣ると、表示されている敵累積撃墜数がまた一つ増えた・・・その数、27。ランスロットは次々に現れるサザーランドを軽やかな動きで破壊していく。落ち着きなく身体を揺らしながら、ロイドはセシルに向かって肩をすくめてみせた。
「僕が軍を選んだのは、ナイトメア開発のためなんだよねぇ。色々めんどくさい事もあるけど、環境とか資金を考えたら、やっぱりここしかないからさあ。僕にはこれの他に出来ることもやりたい事もないし。自分のやりたい事のためには、我慢しなきゃなんない事もあるでしょ・・・そういう事じゃないのかなあ、彼も」
おどけた調子の裏に隠された本音を感じ取って、セシルは静かにロイドの横顔を見つめる。スザクの事を『パーツ』と呼びながらも、ロイドは随分とあの少年の事を気に掛けているのだ。そもそもスザクがテロリストの処分をセシルに尋ねた時、間に割って入ったのはロイドではなかったか。上司の不器用な優しさに、セシルは今朝から何度目かの溜め息をつく。気を取り直して声を掛けようとした瞬間、端末の画面中央に『MISSION COMPLETE』の文字が赤字で点滅した。
「作戦完了しました」
モニタ越しに生き生きとしたスザクの声が響く。30機のサザーランドを数分で全て撃破、ランスロットの被ダメージ率は0パーセントという驚異の結果である。
サイドモニタで戦闘データを覗き見ると、ロイドが喜びの悲鳴と共に大げさな仕草で手を叩いた。
「わあ、おめでとぉ〜!またも新記録更新でーす!」
「えっ、本当ですか!?やった!」
専用のグローブを外しながら、年頃の少年らしい喜びようでスザクが破顔する。
「次の実戦の時もよろしくね〜、スザクくん」
「はい!僕、これからも一生懸命頑張ります!」
ロイドの浮かれた声援に、スザクが晴れやかな表情でシミュレータから顔を覗かせた。セシルは明るい笑顔で少年を出迎える――――それが今、自分の出来る精一杯の事なのだとセシルは思った。



09-05-06/thorn
09-05-09(revised)/thorn