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小 さ な 願 い
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窓から差し込んだ日差しが部屋を柔らかく照らす、穏やかな午後。
クラブハウスのリビングで一人、ナナリーはテーブルに向かっていた。
上質の木材で出来た卓上には色とりどりの紙が広げられている。
ナナリーはその一枚を手に取ると、端と端を指先で確認してから半分に折った。
丁寧に折り目をつけると、再び端を確認して半分に折る。
鮮やかな朱色の千代紙が小さな三角を形作った。
「あら?」
ふと手を止めて、ナナリーは開け放たれたままの戸口に顔を向ける。
「こんにちは、シーツーさん」
「・・・よくわかったな、ナナリー」
音も立てず、そっと佇んでいたC.C.が目を見張った。
「うふふ、空気の流れや匂いで、だいたいどなたがいらっしゃるのかわかるんです」
「たいしたものだ・・・入ってもいいか?」
「ええ、どうぞ」
少女の弾んだ声に、C.C.がふと笑みをこぼす。
裾の広がった拘束服を翻すと、緑の魔女は椅子を引いてナナリーの隣に腰掛けた。
「何をしているんだ?」
「折り紙です。紙を切らなくても、折るだけで色々な物が作れるんですよ」
「それにしては同じ物ばかり作ってるじゃないか。これは・・・」
「鶴です。咲世子さんに教えてもらったんですけれど、千羽折ると願いが叶うんですって」
そう言ってナナリーは傍らに積まれた折り鶴を手に取ると、閉じた鳥の翼を広げてみせた。
「ほう、なるほど願掛けというわけか・・・それで、おまえの願いとは何だ?」
手渡された鶴を受け取って、C.C.が静かに問い掛ける。
(この少女の願いとは、自らの両足で再び大地を駆け回る事か、光を取り戻して世界の有様をその目に映し出す事か――――)
魔女の問いに、ナナリーは笑顔を浮かべて即答した。
「お兄様の事ですわ」
「・・・ルルーシュの?」
「はい、お兄様の願い事が叶いますように、って」
折り鶴を作る手を止めず、丁寧な作業を繰り返しながら少女は頷く。
「・・・おまえ、自分の願い事はないのか?」
「ええ、私は今のままで十分幸せですもの」
ぽつりと呟いたC.C.に、ナナリーが俯き加減で微笑んだ。
「お兄様は昔から、自分よりも私の事ばかりに一生懸命でしたから・・・だから、今度は私がお兄様の願い事を叶えてあげたいんです」
「そう、か・・・」
手の中の折り鶴をもてあそびながら、C.C.は金色に輝く瞳をそっと伏せる。
それに気付く事なく、ナナリーがふいに軽やかな声を上げた。
「できました!」
少女の手の中に、綺麗に折り上がった鶴が横たわっている。
「うむ、上手く出来ているな」
「まあ、本当ですか?」
(・・・折り方を覚えるのに随分苦労しただろうに)
C.C.は目を細めて、嬉しそうにはにかむ少女を見つめた。
「あのう、シーツーさん・・・お兄様の事なんですけれど・・・」
出来上がった折り鶴を両手で大事そうに包み込んで、ナナリーが遠慮がちに口を開く。
「お兄様、最近はとてもお忙しそうで・・・何をしているか私には教えてくれませんけれど、あまりご無理をなさらないように、シーツーさんからも・・・」
「ああ、大丈夫だ。あいつが無茶をしないように見張っていてやるさ・・・私に任せておけ」
「ありがとうございます、シーツーさん」
ナナリーの屈託ない笑顔を眺めながら、C.C.は『共犯者』である少女の兄を想う。
(・・・ルルーシュは、おまえの為に世界を壊そうとしている)
「ナナリー、これを一つもらってもいいか?」
翼を広げた鶴を掲げて、C.C.がふいに尋ねる。
「はい、私が作った物でよろしければ」
こくりと頷いた少女に、C.C.が口の端を吊り上げて低く呟いた。
「ではお礼に、おまえの望みを私が叶えてやろう・・・またな、ナナリー」
「えっ、シーツーさん・・・?」
C.C.は椅子から立ち上がると、紅い折り鶴を片手に無言でリビングを後にする。
(・・・これは契約だ・・・魔女は必ず契約を果たす・・・)
翠色にきらめく長い髪をなびかせて、C.C.は薄暗い廊下を進んでエントランスへと向かった。
心を込めて折った千羽鶴は、きっとその願いを叶えるであろう――――邪な魔女の力をもって。
C.C.は折り鶴を懐にしまい込むと、無垢な少女の面影を振り払って自嘲気味に笑う。
(私が願いを叶えてやろう・・・それがどんな望みであろうとも、それこそが・・・)
「・・・私が求める物なのだよ、ルルーシュ」
吐き出された言葉と共に、翼を広げた紅い鳥の文様が魔女の額でうっすらと光を放った。
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08-02-11/thorn
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