テ レ フ ォ ン コ ー ル
S i d e : L e l o u c h



コールは三回。画面に浮かび上がったのは『公衆電話』の文字。
ルルーシュは通話ボタンを押すと、携帯電話をそっと耳に押し当てた。

「もしもし、スザクか」
「ルルーシュ?どうしてわかったの」
「・・・わかるさ、それは」

含みを持たせた答えに、電話の向こうで低く笑う声がした。
この『エリア11』で『ナンバーズ』は携帯電話の所持を許可されていない。
ルルーシュの携帯番号を知る者で公衆電話を使う人物は、一人をおいて他になかった。

「ね、ルルーシュ。今、何してた?」
「おまえからの電話を待ってた」
「えっ、ホントに?」
「ああ」
「どうして?」
「いいかげん、かけてくるような気がしていたからな」

せっかく番号を教えてやったのに、おまえはいつまでたってもかけてこないから。
わざとらしくぼやいてみせるルルーシュに、スザクはごめんごめんと笑いながら謝る。

「どうした、今日はいやに機嫌がいいな」
「ちょっと・・・いい事があって」

笑いを収めたスザクの、温かで真っ直ぐな声が静かに受話器から流れる。
ルルーシュは目を閉じて、その囁きにじっと耳を傾けた。

「僕を・・・必要だと言ってくれる人がいたんだ、こんな・・・僕にも初めて・・・」
「・・・そうか、よかったな・・・」

優しい笑みを口元に浮かべて、ルルーシュが呟く。

「うん・・・ごめん、いきなりこんな訳のわからない話して」
「おまえの唐突さはいつもの事だからな。気にしてないよ」

ひどいな、と言ってスザクは再び小さく笑った。
それを遮るかのように、通話時間の終わりを告げるブザーの音が響く。

「ああもうコインがないんだ、ねえルルーシュ」

スザクが少し焦ったように早口になる。

「色んなことが上手くいく気がするんだ。これからはきっと・・・だから、」

今度は学校で会えるよね、という声にルルーシュは電話越しに頷いた。

「ああ、学校で」
「じゃあ、またね」

再会の約束を取り付けた瞬間、電話はぷつりと途切れた。
ツーツーと繰り返される単調な音を耳にしながら、ルルーシュはゆっくりと目を開く。
作戦本部に設置された多数のモニターには、全てキュウシュウ鎮圧のニュースが映し出されていた。
連行される澤崎、破壊されたフクオカ基地、ガン・ルゥの残骸と居並ぶブリタニア兵、
そして画面の端に小さく映った白いナイトメア――――
移り変わる映像をぼんやりと眺めながら、ルルーシュは一人、携帯電話に向かってぽつりと呟いた。


「それでも・・・おまえを、死なせるわけにはいかなかった・・・」


脳裏に浮かぶのは、ユーフェミアの騎士として叙任式に臨むスザクの姿。


――――たとえおまえが俺の手を取らなくても。


答える者のない言葉は虚しく宙に掻き消え、その寂寥を増す。
革張りのソファに携帯電話を投げ捨てると、ルルーシュは仮面を身につけて立ち上がった。
トウキョウへ向かう潜水艦の中には窓もなく、蛍光灯の光が白々しく偽りの姿を照らし出している。
漆黒のマントを翻し、乾いた靴音を響かせて孤高の王は暗闇へ続く道へと歩を踏み出した。




いつだって、俺はおまえを必要としていたのに――――



07-10-11/thorn