あ め あ め 、ふ れ ふ れ




今朝の天気予報は曇り時々雨。『曇り』に賭けて傘を持たずに登校したスザクは、降り出した雨に自分の敗北を悟る。しかも帰り際、昇降口へ辿り着いた途端に降り始めるとは――――タイミングの悪さに嘆息して、スザクはひとり軒先から空を見上げた。夕刻も近く、昇降口に人の気配はない。せめて生徒会で作業をしている間に降り始めていれば、誰かに傘を借りることもできたというのに。メンバーを送り出して、最後に施錠して出たのはスザクだから、生徒会室に戻ったとしても誰もいない。今頃みんな寮の自室に着いた頃だろう。スザクは目を細めて、空を覆う灰色の雲をじっと眺めた。
・・・雨の日は好きじゃない。日課のトレーニングも屋内では十分に出来ないから、体はなまるし気分も悪い。じめじめと湿った空気は癖毛のはね具合をますますひどいものにする。

「まあ、いいか」

沈む気持ちをそんな言葉で振り払って、スザクは持っていた鞄を頭上に掲げた。どんよりと濁った空からは雨がとめどなく降り続き、まるで止む気配をみせない。雨宿りもあまり意味がなさそうなので、ここは走って帰るしかなさそうだ。幸い、ここから大学部にある寮までは大した距離もない。一張羅の制服と革製の鞄が濡れてしまうけれど、この際それは仕方ないだろう。スザクが意を決して飛び出そうとした時、背後から少し怒ったような声が聞こえてきた。

「・・・おい、まさかこの雨の中を走って帰るつもりじゃないだろうな」

振り向けば、さっき生徒会室で別れたばかりのルルーシュが不機嫌そうに腕組みしている。スザクは足を留めると、鞄を下ろして首を傾げた。

「あれ?ルルーシュ、どうしてこんな所に・・・」
「走って帰るのはいいが・・・おまえはともかく、教科書が濡れたらどうする。クラブハウスと生徒会室のある棟は繋がっているんだ。雨が降ってきたなら、うちに傘を借りにくればいいだろうが」

スザクの質問を無視して一方的に言い放つと、ルルーシュは仏頂面で手に持った傘を掲げてみせた。スザクは驚いたように目を瞬かせる。

「あ・・・ひょっとしてそれ、僕のために?」
「フン、勘違いするな!誰がおまえの為にわざわざ・・・ちょうど冷蔵庫の牛乳を切らしていたのを忘れていたからな。これからスーパーまで買い物に行くところだ」

スザクの前を素通りすると、ルルーシュは昇降口の軒先で傘の柄に手を掛けた。手元のボタンを押せば、鮮やかなスカイブルーの傘が薄暗い空の下でぱっと広がる。雨の中に一歩を踏み出すと、ルルーシュはくるりと後ろを振り返った。

「・・・ほら、入らないのか?」

ぽかんとルルーシュの顔を見つめていたスザクは、その言葉に子供のような笑みを浮かべる。近所へ買い物に行くのにクラブハウスの玄関ではなく、わざわざ遠回りをして学園側の昇降口を利用するなんて――――本当に下手な言い訳だ。
照れ隠しに気付かないふりをして、スザクはルルーシュの隣に勢いよく飛び込んだ。傘が揺れて、弾いた水滴が二人の肩を濡らす。

「うわっ・・・こら、バカ、濡れるだろう!」
「・・・うん、雨も悪くないね」

君と一緒なら、という言葉を飲み込んで、スザクは満足げに小さく頷く。何か勝手に納得した様子のスザクに、ルルーシュが不審げに眉を寄せた。
スザクが再び空を見れば、ルルーシュの掲げる傘が視界を半分に遮っている。それが二人の上に広がる青空のように思えて、スザクは隣に並ぶ細い肩をそっと抱き寄せた。



09-06-22/thorn