気がつけば、いつもきみの事ばかり考えている。
今、どこにいるの。
今、何をしてるの。
会いたい。
今、きみに、会いたい。
きみに会えたら、ぼくは――――――



執 着 / 解 脱



「・・・くん、スザク、くん?」
セシルさんがどこか奇妙なイントネーションで僕の名前を呼んでいる。
三度目に名前を呼ばれた時、僕は『たった今、気がついた』という顔をして振り向いた。
「あっ、すみません、なんでしょうセシルさん」
「スザクくん・・・・・・ううん、何でもないわ。調子はどう?」
「ええ、かなりいいですよ」
不安げな表情のセシルさんに向かって、僕は安心させるように微笑んでみせる。
しかし彼女は僕の顔を見ると、なおさら落ち着かない様子で目線を外して俯いた。
「そう・・・でも、あのね、無理はしなくていいのよ」
「無理?」
パイロットスーツのファスナーを胸元に上げながら、僕は笑って首を傾げる。
「無理なんてしてませんよ。最近、すごく調子がいいんです」
「・・・そうね、そうだったわね」
セシルさんは手にしていた分厚いファイルを抱え直した。
ファイルの中には僕とランスロットに関するデータディスクが山ほど入っている。
昨日のテストで、僕は今までを大きく上回る記録を叩き出した。
ロイドさんは手を叩いて喜んでいた。セシルさんは戸惑ったような表情をしながら僕を褒めた。
僕は二人に『自分でも驚いた』という顔をしてみせた。
その『結果』は思った通りの内容だったけれど、満足はしていない。
僕は今、ランスロットの専任デヴァイサーとしてここにいる。
でも、それが永遠に保証されているわけではない。
『結果』が出せなければ明日にでも、僕ではない、別の人間がランスロットの『パーツ』となるのだ。
この場所を、ランスロットを、誰にも譲る事はできない。そのためには――――
「ねえ、スザクくん」
特殊な素材で出来た、ナイトメア専用のグローブを装着する僕に、セシルさんがゆっくりと話し掛ける。
「今は大変な時だけど、落ち着いたら・・・学校、続けていいのよ。ユーフェミア様だってきっと、」
「ありがとうございます。でも僕には、ここでやる事がありますから」
言葉を続けようとする彼女を遮り、僕は表情を改めてきっぱりと言い切った。
「・・・学校では、お友達だってたくさん出来たんでしょう?」
セシルさんの問い掛けに、僕は『友達』の顔を心に浮かべる。
自然と口元に笑みが浮かんだ。
「ええ。でも、『友達』とはいつでも会えますから」
セシルさんが僕を見てほっとしたように力を抜き、何か言いかけた、その瞬間。
アヴァロンの格納庫内にサイレンが鳴り響いた。
艦内のアナウンスが慌ただしく状況を告げる――――新型ナイトメア数機による軍拠点への奇襲。
眉根を寄せて、セシルさんが黒の騎士団、と呟く。
「ほら、ね」
「え?」
聞き返すセシルさんにいってきます、と言い置いて、僕はランスロットへと走った。
ヘッドセットを装備して、コクピットへ乗り込む。起動キーを差し込むと視界が開けた。
セシルさんが心配そうにランスロットを見上げている。
格納庫へ飛び込んできたロイドさんがいってらっしゃあーい、と叫んで大きく手を振った。
緊迫した状況に似合わない、間延びした声に吹き出しそうになりつつ、僕は操縦桿を強く握る。
ランスロットのフロントモニターに、鮮やかにミッションが浮かび上がった。

いつも不安だった。いつも迷っていた。
一人、のうのうと生き続ける自分が嫌いで、赦されるための罰を求めて、ずっと彷徨っていた。
囚われていた死への想いを断ち切った、きみの声――――『生きろ』、という言葉。
そう、教えてくれたんだ、きみが。
僕に生きる、意味を。


『黒の騎士団を殲滅し、首謀者であるゼロを、抹殺せよ』


僕は静かに操縦桿を引く。
追い求めるのは、ただ一人。


「ランスロット、出撃します」


すぐに会えるよ、ルルーシュ。



07-04-22/thorn