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a f ri e n d o f m i n e
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一日の長い授業を終えて、待ちに待った放課後。
教室や廊下には、これからそれぞれの部活へ向かう生徒達の明るい笑い声が満ちている。クラスメイトの間をすり抜けて、リヴァルは軽やかな足取りでクラブハウスの一角を目指した。
「ちわーっす!」
いつものように生徒会室に足を踏み入れると、珍しい先客の姿が目に飛び込んでくる。入り口に背を向け、ノートパソコンを覗き込む背中はリヴァルの大声にも全く反応しない・・・居眠りしているか、考え事に集中しているのか、どちらかだろう。そっと背後へ近寄ると、リヴァルはその薄い背中を勢いよく叩いた。
「いようルルーシュ!元気か?」
瞬間、細い肩が弾かれたように震える。
画面に表示されていた何かのデータが掻き消え、黒一色の味気ないデスクトップが広がった。どうやらとっさにファイルを閉じるキーを押したらしい。
「ああ、なんだリヴァルか・・・遅かったな」
何をしていたのか尋ねるより先に、ルルーシュがいつもの笑顔で振り返った。
「遅いも何も・・・俺は誰かさんと違って、午後の授業を真面目にうけてたんだぜ?しかも『なんだ』って何だよ、ひっでーなあ」 「ああ悪い。つい本音が出ちゃってさ」
「本音ぇ!?」
くすくす笑いながらルルーシュがノートパソコンのディスプレイを伏せる。
そんなに見られたくない物なのだろうか・・・そう思うと却って気になるが、ルルーシュがそう簡単に中身を教えてくれるとは思えない。さっきちらっと見た感じでは何かの地図とグラフのようだったし、問い詰めても面白いものが出てくる可能性は低そうだ。あっさり追求を諦めると、リヴァルはぐるりと室内を見渡した。
「ところでミレイ会長は?まだ来てないのか?」
「会長ならたった今、生徒会室を出ていったよ」
「なんだ、入れ違いかあ・・・」
「すぐ戻ってくるさ」
あからさまに肩を落とすリヴァルに、ルルーシュが苦笑する。
「シャーリーも来てないんだな。先に教室を出て行ったと思ったんだけど」
「大会が近いから今週は水泳部に行くって、昨日言ってただろう?」
「そういえば言ってたなあ・・・じゃあ、ロロは?2年の授業はもう終わってるだろ」
「さあ、何か用でもあるんじゃないか。後で来るとは思うけど」
「へーえ、ブラコンのルルーシュにしては適当な発言じゃん?」
「・・・そんな事ないさ」
「何にしろ珍しいよなぁ、おまえが一人でいるのって」
「ああ・・・そう、かな」
口籠もるように答えて、ルルーシュが正面に向き直る。机を回り込んで、リヴァルは向かいの椅子に腰掛けた。
「今日はあいつらも来てないのか・・・ひょっとして仕事かな?」
「あいつら?」
「ジノとアーニャだよ」
大きく伸びをすると、リヴァルは宙を眺めながら呟く。
「ナイトオブラウンズだなんて、もっとごつい奴らばっかりだと思ってたけど、なんか調子狂うよなぁ・・・年も俺達とそんなに変わらないし・・・」
「スザクだってそうだろ?」
「まあそうだけどさ、あいつは元々この学園にいたわけだろ?ほかにラウンズで友達になれる奴がいるなんて思わないじゃん」
「リヴァルは特にジノ様と仲がいいもんな」
目を伏せて微笑むルルーシュに、リヴァルが口を尖らせる。
「おいおい、なんでアイツに『様』なんて付けるんだよ!大貴族だろうがラウンズだろうが、学校では俺達の後輩だろ?」
「・・・庶民の癖、だよ」
「なんだそれ」
リヴァルに答えず、ルルーシュは口元に笑みを浮かべたまま視線をそらした。素知らぬ顔で閉じていたノートパソコンの画面を広げ、何事もなかったかのようにキーを叩き始める。リヴァルはふくれて目の前の友人を軽く睨んだ。
あの二人に対するルルーシュの態度は明らかにおかしい・・・学校での顔しか知らない奴にはわからないだろうが、よく賭チェスに付き合っているリヴァルから見れば、ルルーシュの態度は『当たり障りがなさすぎる』のだ。リヴァルがラウンズの二人と気安く接していても、ルルーシュは彼らに対して丁寧語を使い、決して必要以上に関わろうとしない。悪気がないとはいえ、『庶民』を連呼するジノに無反応なのも気に掛かる。相手が貴族だろうと軍人だろうと、上から目線の発言に対して、今までルルーシュが黙っていた事はない。いつもなら、涼しい顔でイヤミのひとつでも言ってのけるはずだ。それに――――
「な〜んか変なんだよなあ」
「・・・何がだ?」
パソコンの画面に目を向けたまま、ルルーシュが硬い声音で聞き返した。
「ジノとアーニャの事、」
「皇帝陛下直属の騎士だぞ、俺たちみたいな『普通の高校生』という訳にはいかないだろう」
「そうじゃなくてさ。あいつらのルルーシュへの態度、って事」
机に片肘をついて、リヴァルは友人の整った顔を眺める。
「よくおまえの事を見てるんだよなあ。アーニャだけかと思ってたけど、ジノもさぁ・・・」
「よせよ、男に見られてるなんて気味が悪い」
「いーや、そういう感じじゃなくて・・・ヘラヘラしてるんだけど、なんかこう、ちょっと目付きがいつもと違うっていうかさぁ・・・」
ルルーシュは話に興味がないのか、パソコンの画面から顔を上げない。上手く伝えられないもどかしさに、リヴァルは半ばムキになって言い募った。
「それにジノの奴、ルルーシュには妙に丁寧だろ?ちゃんと『先輩』って呼ぶし、おまえに限って馴れ馴れしく触ったりしないしさ・・・別に苦手なタイプってわけでもないみたいだけど。むしろ・・・」
その先を続けようとした時、ふいにルルーシュがパソコンから顔を上げた。ゆっくりと上がった手が顔の反面を覆い、指先が左目を押さえる。ひとつ輝く深紫の瞳に射抜かれて、リヴァルは思わず言葉を飲み込んだ。
「・・・むしろ、なんだ?」
いつもと変わらない調子でルルーシュが先を促す。
だが、漂う緊張感からリヴァルは自分がルルーシュの隠す『何か』の一端に触れた事を悟った。
――――この先に踏み込むな。
ルルーシュの瞳は言外にそう語っている。
元々雑談から始まった、くだらない話だ。適当に切り上げるのがいいだろう。しかし、それでも自分がこの話を追求しようとするなら、一体ルルーシュはどうするのだろう。詮索するなと怒るのだろうか。くだらない話だと冷たく突き放すのだろうか。それとも・・・
そんな事を頭の片隅で考えながら、リヴァルはふいに顔を顰めて首を傾げた。
「・・・えーと、なんだっけ。何を言おうとしたか、いきなり忘れた」
「なんだよ、リヴァル。気になるじゃないか」
「ルルーシュがせかすからだろ。大した話でもないし、いいじゃん別に」
気の抜けた調子でとぼけると、ルルーシュがどこかホッとしたように手を下ろした。同時に、身に纏っていた鋭い空気が消える。
「・・・まあ会長発案のイベントはともかく、運営の実質的な仕事は副会長の俺が取り仕切っているわけだしな。ナイトオブラウンズといえど、学園において敬うべき人物の分別はあるという事だろう」
「ちぇ、どーせ俺はただのヒラ会計ですよ、庶民で悪いか!」
「リヴァル・・・そんな事言ってると、横から会長を盗られるぞ?校舎の案内してほしいとかで、さっき二人で一緒に出て行ったけど・・・」
「なっ、ジノと会長が!?マジでぇ〜!?おまえなんで最初にそれ言わないんだよっ!」
慌てて立ち上がるリヴァルに、ルルーシュが小さく声を立てて笑った。その屈託ない表情に、リヴァルもにっと笑みを返す。
・・・『何でも隠し事をしないのが友達』、などというけれど、友達だからこそ、言えないことや言いたくない事だってあるはずだ。秘密を知らない相手だからこそ、気安い話ができる事もあるだろう。自分が何も知らない事で、ルルーシュが少しでも安らげるならば、いつまでも知らないふりを続けてやろう・・・なぜならリヴァルはルルーシュの友達だからだ。
「じゃあ俺、ちょっと会長の護衛に行ってくるわ。ジノの奴、油断ならねえし」
「さながらミレイ会長の騎士だな」
「おー、それいただき!ルルーシュもなんかあったら俺を呼べよ。この庶民の味方、学園のナイト・リヴァル様が助けてしんぜよう!」
「・・・ああ、頼りにしてる」
親指を立てて決めポーズをつくるリヴァルに、ルルーシュが肩をすくめて苦笑する。生徒会室を飛び出す背中に、すまない、という呟きが届いたが、リヴァルは何も聞かなかった事にした。
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08-07-12/thorn
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