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特 派 の 日 常
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アシュフォード学園大学部の片隅に、ブリタニア軍特別派遣嚮導技術部、通称「特派」のトレーラーが停められている事を知る者は少ない。ましてや、そこでナイトメアの最先端技術が扱われているなど、知る由もないだろう・・・それがどんな人々によって生み出されているのかという事も。
大学部の敷地を颯爽と横切る学生服の少年に、数人の女子大生が振り返る。ちらちらと注がれる女性たちの視線を気にした風もなく、少年は真っ直ぐにトレーラーのある広場へと向かった。
大きく開け放たれたトレーラーのエントランスに佇むと、学生服姿の少年は背筋を正して敬礼の形を取った。
「枢木スザク准尉、戻りました。ただいまより・・・」
「スーザークーくーん?」
精密機器を覗き込んでいた軍服の女性が、半眼でゆっくりと振り向いた。
「あ、えっと・・・ただいま、セシルさん」
「はい、お帰りなさい!」
規律の厳しい軍において、普通このような挨拶は決して許されない。しかし、これが特派を取り仕切るセシル・クルーミーの決めた『内規』であった。くだけた挨拶で帰還を告げるスザクに、セシルがにっこりと笑いかける。
「学校はどうだった?もう慣れたかしら」
「あ、はい!勉強はついていくのがやっとですけど・・・」
「わからない所があったら遠慮なく聞いてね。私で良ければ教えるから」
「ありがとうございます、セシルさん」
スザクは笑顔を返して、テーブルの上に鞄を置いた。首まで詰まった制服の襟元を緩めて、軽く息をつく。
「そうだ、スザクくん、お昼は?もう食べた?」
妙に弾んだセシルの声に、スザクがぴしりと固まった。背中に冷たいものが伝う。
「・・・はい、学校の方でいただいて、お腹いっぱいなんですが・・・」
「あら、そう・・・残念だわ。じゃあこれはロイドさんに・・・」
皿に載った大量のおにぎり(らしきもの)を手に、セシルが小首を傾げた。スザクは心から安堵すると共に、内心でロイドに向かって手を合わせる。そんなスザクの様子に気付く事なく、明るい調子でセシルが話し掛けた。
「学校ではいつも学食でご飯食べてるの?」
「いえ、お弁当を作ってもらって、外で・・・」
「お弁当ですって!?」
いきなりの大声に、スザクがびくりと体を震わせた。
「・・・ええと、何か問題でも・・・」
「枢木准尉、これは非常に重要な問題です。私の質問に正直に答えて頂戴」
「Yes, my load」
真剣な表情で詰め寄るセシルに、スザクが緊張気味に背筋を正す。
「お弁当・・・それは自分で作ったものではないわよね?」
「はい、自分の宿舎にはそんな設備はありませんので」
「誰に作ってもらったの?」
「はい、友人が妹の弁当を作るついでに僕の分も作ってくれるのですが・・・」
「美味しかった?」
「はい!すごく料理が上手なんです。今日も僕の好物を入れてくれました」
「どんな子なの?」
「すごくしっかりしていて、よく気がつく性格なので、いつも色々と助けてもらっています」
「その子、可愛い?」
「は?・・・ええと・・・かわいい・・・というより、どっちかというと綺麗、です」
「美人でしっかり者、おまけに家庭的、ね・・・」
うんうん、と一人で頷きながら、セシルはあさっての方向を見つめて何か考え込んでいる。そろそろと上司の様子を窺うと、セシルがくるりと振り返った。びしりと眼の前に突き付けられた指にスザクが息をのむ。
「それで?その子とスザクくんは一体どういう関係なの?」
「どういうって・・・ただの友人、ですけど・・・僕は・・・」
もごもごと口ごもるスザクに、なるほどよくわかったわ、と言ってセシルが深く頷いた。勝手に何かを納得したようなセシルに、スザクが疑問符を頭上に浮かべて眉を寄せる。そのとき、機器の向こうから間延びしたロイドの声が聞こえた。
「スザクくん帰って来たのか〜い?じゃあランスロットのテスト始めるよ〜」
「あ、僕すぐに着替えてきます!」
その声を救いとばかりに鞄を取ると、スザクはロッカーへと全力で走り去る。
「おーい、どうしたのさ〜、セシルくん」
フロアで一人唸っているセシルを目に留めて、ふわふわした足取りでロイドがやって来た。我に返ったセシルが勢い込んで話し出す。
「聞きました?ロイドさん!スザクくんたら、もういい子が出来たんですって!」
「へえ〜」
全く興味のなさそうな顔のロイドに対して、セシルは一人で目を輝かせる。
「美人でしっかり者で、おまけに料理も上手なんですって・・・お弁当まで作ってもらってるなんて、これは脈アリですよね!一体どんな子なんでしょう!」
「あのうセシルくん、」
「ああ、気になるわ〜!高等部はお向かいだし、休み時間にこっそり覗きに行っちゃおうかしら!」
「そろそろお仕事の方を、ですね・・・」
「あ、そうそう!ロイドさん、お昼まだでしたよね。お腹空いてませんか?」
思わず、はい、と頷いたロイドに向かって、セシルが満面の笑みを浮かべる。振り向いたその手には、山のように原色のおにぎりが積まれた皿が載せられていた。
「じゃあこれ!た〜んと召し上がれ!」
――――その日の午後、特別派遣嚮導技術部主任、ロイド・アスプルンド伯爵は、原因不明の腹痛により、半年ぶりに有給休暇を申請したという。
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07-04-15/thorn
09-05-10(revised)/thorn
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