盤 上 遊 戯






窓から差し込む陽光がクリスタルのチェスボードに反射して瞬く。
ルルーシュは眩い光に目を細め、黒の歩兵を進めた。
向かい側に腰掛けた少女は愛らしく首をかしげ、盤上に白い腕を伸ばす。

「ユフィ、ナイトをそこに動かす事は出来ないよ」
「まあ、ごめんなさい!ええと・・・」

ユーフェミアはたどたどしい手つきで駒を動かした。
それもルルーシュの次の一手であっけなく黒に置き変わる。

「チェスって難しいわね。私、なかなか覚えられなくて」
「なに、すぐに慣れるさ」

恥ずかしそうに俯く少女に、ルルーシュは笑いかけた。
優しい声音に安心したように、ユフィは顔を上げて微笑む。

「でも私、ひとつだけ知ってるわ」

ユフィは突如腰を浮かして黒の王をその細い指先で摘み上げた。

「王様を取られたら、おしまい」

呆気にとられるルルーシュを眺めて、ユフィが軽やかな笑い声をあげる。
無邪気な笑顔につられてルルーシュも笑った。
少女はふいに立ち上がって、手にした駒を窓から豊かに降り注ぐ陽光にかざす。

「すごく綺麗――――透かしてみると光が柔らかく見えるの。とても優しい光」

ユフィは大事そうに黒の王を両手で包み、ルルーシュを振り返った。

「これ、貰って行ってよいかしら」
「ああ」
「ありがとう、ルルーシュ」

ユフィは嬉しそうに笑みをこぼすと、ふわりとドレスを翻し、彼方へと歩き去った。
一人残されたルルーシュは微笑みを顔に貼り付けたまま、その手で盤上を薙ぎ払う。

駒は全て冷たい床に当たって、粉々に砕けて散った。




07-04-14/thorn