盤 上 遊 戯






驕奢な衣装を身に纏った男は駒を手にしたまま、白と黒に彩られた盤の上でしばし目線を彷徨わせた。
やがて意を決したように、手の中のビショップを盤上の一点に据える。

「相変わらず、底の浅い手ですね」

辛辣な言葉を吐き出して、黒の王は微笑みを浮かべながら自らの駒を手に取った。
置かれたばかりの白はあっさりと黒に取って代わり、からんと音を立てて盤から転げ落ちる。

「フン・・・そ、その程度・・・まだ・・・」

震える手で残った駒を摘み上げ、男は再び白の駒を盤上に立てる。

「あなたは昔から変わりませんね・・・自らを過信し、その過ちを決して改めようとしない・・・」

目の前の男を哀れむように見つめながら、ルルーシュは黒のキングを手に取った。

「あなたは、最初から王の器ではないのですよ、殿下」
「・・・ほざけ!」

呆気なく崩れていく己の牙城を眺めながら、それでも男は傲慢な態度を崩そうとしない。
焦りの表情を浮かべる男の眼前で、白の駒が次々に打ち倒されていく。

「チェックメイト。また僕の勝ちですね、クロヴィス兄さん」

ルルーシュが高らかに勝利を宣言して立ち上がった。
深紫の瞳が力なく座る男を見下ろして強い光を放つ。

「負けるはずがないんだよ・・・俺が・・・おまえ達のように何も変わらない、変えようとしない奴らなんかに!」

自信に溢れたその言葉に、クロヴィスが顔を伏せて小さく笑った。
白い駒が無惨に散ったチェス盤の傍らでルルーシュが怪訝そうに眉を寄せる。

「・・・何が可笑しい?」
「変わらない、か・・・いや、変わってしまったさ、私は」

静かに首を振ると、クロヴィスはそっと顔を上げてルルーシュを見返した。
穏やかなその瞳にルルーシュが戸惑いの表情を浮かべる。

「あれから私は随分と穢れてしまった・・・もう二度とあの時のような絵を描くことは出来ないだろう」

微かな衣擦れの音と共にクロヴィスが立ち上がった。
立ち尽くすルルーシュに歩み寄ると、紺碧色の瞳を細めてどこか寂しげに微笑む。

「おまえは変わらないな、ルルーシュ・・・強く美しい、勝者の目だ」

立ち尽くすルルーシュの隣をすり抜けると、戸口に手を掛けてクロヴィスはゆっくりと振り返った。



「勝ち続けろ、ルルーシュ――――おまえのその目は、とても美しい」




08-01-05/thorn